
「なぜ緊急脱出ハンマーが必要か」では、2020年8月に発表された国民生活センターのアンケート調査結果(以下、「国民生活センター調査」)を踏まえて、緊急脱出ハンマーが必要な状況は無視しえないリスクとして現実に存在していること(車所有の3.76%の人が実際に使用)、実際に使用された4割以上の人が他の車の乗員を助けるために使用したと回答していること、最近水害などによりそのリスクが増えている状況にあることをお伝えしました。
本コラムでは引き続き国民生活センター調査結果を参考にしつつ、緊急脱出ハンマーを購入する際に留意すべきことをお伝えしたいと思います。
目次
1 実際に緊急脱出ハンマーを使用した人の半分以上が失敗、又は苦労している
次に示すとおり、緊急脱出ハンマーを使用して簡単に切ることができた人(62人)よりも、なかなか切れずに苦労した(31人)及び使い方がわからずに他の道具を使用した(39人)の合計の割合が多くなっています。
また、そもそも緊急脱出ハンマーにシートベルトカッターがついていなかったと回答された人が多く(656人)います。
シートベルト切断

(国民生活センター2020年8月20日報道資料より)
(2)ガラス破砕について
次に示すとおり、緊急脱出ハンマーを使用して①簡単に破砕することができた人(50人)よりも、②なかなか破砕せずに苦労した人(49人)、③傷やヒビができるけれど大きく拡げることができなかった人(41人)及び④ガラスを破砕することができなかった(48人)の合計の割合が圧倒的に高くなっています。
この中には取り付けられているガラスが強化ガラスではなく、フィルム(樹脂)を間に挟んだ合わせガラスであった場合が含まれていると考えられます(特に回答の③は、合わせガラスの破砕を試みた場合の特徴が示されています。)
実際、アンケート回答者5000人のうち、65.3%の人が自分の車のドアガラスの種類を知らないと回答しています。
ガラス破砕

(国民生活センター2020年8月20日報道資料より)
(3)留意点(まとめ)
・緊急脱出ハンマーの性能が信頼できるものであるか購入する際に確認すること
・緊急脱出ハンマーにシートベルトカッターが付いているかどうか確認すること
・緊急脱出ハンマーの使い方を購入のとき及びときどき確認しておくこと
・緊急脱出ハンマーの購入の際に自分の車のドアガラスの種類を確認しておくこと
ドアガラスが合わせガラスの場合、緊急脱出ハンマーでは破砕できず又は一部破砕できたとしても容易に脱出できません。
【参考】強化ガラスと合わせガラスの見分け方
・「強化ガラス」は、“JISマーク”の付いた自動車用ガラスでは、JISマーク付近に「T」または「TP」の表記があります。 「合わせガラス」は、“JISマーク”の付いた自動車用ガラスでは、JISマーク付近に「L」または「LP」の表記があります。
・ドアガラスを半分ほど開け、断面を上から確認し、2枚のガラスが貼り合わせられている場合は合わせガラスとなります
2 ガラス破砕の際にケガをする人が多かった
(1)緊急脱出ハンマー使用時のケガの状況
緊急脱出ハンマーでガラスを破砕した人の半数以上(59%)がケガをしています。
また、ケガをした人の半数以上(52%)が全治一週間以上を要し(全治1年以上29%)ています。
ガラス破砕の際のケガ
(国民生活センター2020年8月20日報道資料より)
この原因として、強化ガラスは破砕の際には全体が細かい粒状に粉々に割れるとされていますが、当社が行った実験では、崩れ落ちる際に一部がまとまった大きさで落下したり、破砕の衝撃で破片が飛び散ったりすることがあり、緊急脱出ハンマーを使用した人の手などを傷つける可能性があります。
・緊急脱出ハンマーを使用する手と破砕するドアガラスとの間の距離をなるべく大きくすること(製品によっては距離がとりづらいものがあるので、その場合には手袋を装着することが望まれる)
・緊急脱出ハンマーの取付け箇所の近くに手袋(軍手など)などを用意し、できる限り手袋を装着してハンマーを使用すること
・ガラスが崩れ落ちても窓枠周辺にはガラスが残っていることが多いため、脱出の際にはそれらをハンマー等でなるべく多く取り除いたうえで脱出すること。(脱出の際には身体の腹部を衣類等で保護することが望まれる。)
3 市販されている緊急脱出ハンマーのテスト結果
国民生活センター調査においては、ホームセンターや自動車製造事業者から入手した11社14銘柄の緊急脱出ハンマーを用いて以下の試験を行っています。
(1)シートベルト切断、ドアガラス破砕試験
シートベルトカッターの付いていない1銘柄を除き、すべての銘柄でシートベルトが切れ、ドアガラスが破砕できています。
(2)耐寒性及び耐熱性試験
バッテリーを内蔵した2銘柄を除く12銘柄について、-30℃±2℃で96時間(耐寒性)、90℃±2℃で96時間(耐熱性)保持する試験を行い、使用する部分及び機能部分の変形、外れ、緩み、割れなどの有無を確認しています。
耐熱性試験では4銘柄で柄の部分に変形が見られています。
4 なぜJIS認証製品がお勧めか
以上の内容を踏まえ、なぜJIS(日本産業規格)認証製品が推奨されるかを説明します。
消棒Rescue®JISマーク
(1)JIS D5716(自動車用緊急脱出支援用具)は世界で一番厳しい規格
世界における緊急脱出ハンマーに関する規格としては日本のJIS D5716とドイツのGSマーク製(ドイツ製品安全法が定める品質・安全基準を満たすことの証明)があります。この2つを比べると、例えばJIS規格ではドアガラス破砕の際に必要な力を0.7ジュール(70歳の女性が片手のストロークで発揮できる力)と数値化していますが、GSマークでは数値化されていません。また、上記国民生活センターの製品テストにおいて、GSマーク付きの2製品が耐寒・耐熱試験の結果変形した写真が掲載されています。
(2)JIS D5716は製品の性能、安全性及び品質管理を要求し、それを第三者機関が客観的に評価
【製品性能】
・製品は、シートベルトを連続30回切断できること
・製品は、0.7ジュールの力(70歳女性の片腕ストロークの力)で連続3回ガラスを破砕できること
・製品は、1.5mの高さからコンクリート板に落下して使用する部分に損傷がないこと
・製品は、-30℃に連続96時間、90℃に連続96時間保持されても本来の機能を発揮できること
・製品は、温度-30℃~90℃の変化及び湿度55%~95%-99%の変化を24時間で行い、それを5回(120時間)繰り返すこと
【安全性】
・シートベルトカッターの開口部は5㎜以下、導入部の長さは刃部まで15㎜以上とすること(指が入らないようにする)
【設置方法】
・シートベルトを装着した状態で製品が手の届く範囲に設置されていること
【品質管理】
・製品を製造する工場の実地検査と書類審査があり、社内規定、部品管理、工程管理、トレーサビリティ管理、JISマーク表示管理などが確認されます。
5 最後に
緊急脱出ハンマーは、いざというときに命を救うツールとなるものです。製品購入の際には、以上の留意点に加え、実際に手に取ってみて、いざというときにすぐに使えるか、使いやすいかを確認して購入することをお勧めします。
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