目次
1.経緯など
JIS D 5716とは、自動車用緊急脱出支援用具に関するJIS(日本産業規格。日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格)の名称です。
自動車用緊急脱出支援用具は、交通事故や水没事故等で自動車内に閉じ込められた際に、シートベルトの切断や自動車用強化ガラスの破砕により、乗員の車外への脱出を支援する非常時用車載用品です。
本規格が制定される以前には、粗悪品が市場流通した実例が報告されたため※、ユーザの安全・安心を確保するために新たにJIS D 5716が2016年9月20日に制定されました。
※国民生活センター「ウインドーガラスが割れない自動車用緊急脱出ハンマー」
JIS D 5716原案の作成にあっては、当時、自動車緊急脱出支援用具「消棒Rescue」(消棒レスキュー)の開発、製造、販売を行っていた当社(株式会社ワイピーシステム)の吉田英夫代表取締役が、経済産業省や国土交通省からの委員とともに委員として参加し、「消棒Rescue」(消棒レスキュー)の開発で得られた知見を提供するなどの貢献を行っています。
JIS D 5716の概要
(1)種類
以下の2種類があります。
種類 | 説明 | 当社製品 |
---|---|---|
基本機能型 | シートベルト切断機能及び ガラス粉砕機能だけをもつもの |
消棒ライフセーバー 認証番号※:JQ0321004 商品詳細へ |
消火機能付加型 | 基本機能型に消火機能を付加したもの | 消棒Rescue(消棒レスキュー) 認証番号※:JQ0318004 商品詳細へ |
※JIS認証番号について
経済産業省から認定を受けた第三者機関が審査し、合格と認められた製品について認証番号が付与されます。
これにより「JIS認証品」と呼称することができます。(自社試験等によりJIS規格に適合しているとして自称する「JIS適合品」とは異なるものです。)
(2)JIS及びJIS D 5716が求める要件
①JIS(日本産業規格)においては、製品の生産に関する品質管理及び品質管理体制が求められています。
具体的には、JIS品質管理責任者の任命、製造工程における品質管理、社内規定(標準)の整備、工程中及び完成品の検査、出荷製品に係るトレーサビリティーなど多岐にわたります。
②JIS D 5716の主な立会試験内容
「ガラス破砕突起部の硬さ試験」
JISで定められた試験方法(マイクロビッカース硬さ試験)により、自動車用強化ガラスを割るための自動車緊急脱出支援用具突起部の硬さを検証します。
突起部が柔らかすぎると先端部が変形(座屈)しガラスが割れません。
硬すぎると脆くなり破損しやすくなります。
JIS D 5716ではHV760以上の硬度が求められています。
【写真】マイクロビッカース硬度計及び硬度測定部の切断写真
「シートベルトカッタの形状・寸法試験」
緊急時の自動車シートベルトの切断に用いられるシートベルトカッタ(刃)については、取り付け部に指が入らないよう形状と寸法が定められています。
【写真】消棒ライフセーバーのカッタ部
「耐寒及び耐熱試験並びに温湿度サイクル試験」
自動車緊急脱出支援用具が炎天下や真冬の温度にさらされても性能が変わらないことを検証するための試験です。
恒温恒湿槽などの試験装置を用い、-30℃±2℃で96時間、90℃±2℃で96時間保持し、使用する部分及び機能部分の変形等がないか確認します(耐寒及び耐熱試験)。
その後同一製品を、常温(23℃±2℃)で4時間(湿度条件あり、以下同じ。)、55℃(±2℃)で10時間、-30℃(±2℃)で2時間、90℃(±2℃)で2時間、さらに温湿度調節時間を含めた24時間のサイクル試験を連続で5回(合計120時間)行い、使用する部分及び機能部分の変形等がないか確認します(温湿度サイクル試験)。
【写真】恒温恒湿槽(中の製品は消棒Rescue)
「シートベルト切断試験」
自動車用のシートベルトを定められた力で30回連続切断できることを検証する試験です。
ミニバンなど多人数で乗車している状態ですべてのシートベルトを切断する能力が求められています。
試験には上記の試験を経た製品を用います(以下の試験について同じ。)
【写真】シートベルト切断機を用いた試験
「ガラス破砕試験」
自動車に設置される強化ガラス(フロントグラスなどに用いられる合わせガラスは対象としていません)を定められた力※で3回連続割れることを検証する試験です。
※70歳の女性が座席に座った状態で、片手で用具を用いて動作するときの標準的な力
【写真】ガラス破砕試験
「衝撃試験」
自動車緊急脱出支援用具が長期保管による劣化で本来の機能を発揮できなくならないかを検証する試験です。
定められた力で製品をコンクリートで叩き、使用する部分及び機能部分の変形等がないか確認します。
【写真】衝撃試験
「落下試験」
自動車緊急脱出支援用具のガラス破砕部と樹脂部との接合部分の強度を確認します。
1.5mの高さから製品をコンクリート板に落とし(垂直及び水平方向)、使用する部分及び機能部分の変形等がないか確認します。
【写真】落下試験
3.当社の考え
上述のように、JIS D 5716で求められている製品への要求水準はかなり厳しく、日常的な製品の品質管理及び試験準備、試験にかかる時間、コストを含めれば、JIS認証を取得するためのハードルはかなり高いものと言えます。
自動車緊急脱出支援用具は「万が一」のときの用具ですが、もし「万が一」のときに製品が性能を発揮できなければ命に直結するため、このような厳しい規格が定められており、製品を提供する側としてもそうした規格を満たす製品を世の中に送り出すことが責務であると考えております。