
(NITE(ナイト)[独立行政法人製品評価技術基盤機構]2024.7.23PSマガジンより)
https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/mailmagazin/2024fy/vol457_240723.html
梅雨入りかと思ったらすぐに真夏のような時候が続いています。リチウムイオン電池を使用した製品は身近にとてもたくさんあります。スマートホン、ノートパソコン、タブレット、モバイルバッテリー、携帯扇風機/ハンディファン、コードレス掃除機、電動アシスト自転車、電動工具、玩具製品などなど。これらの製品は私たちの生活を便利にしていますが、製品に用いられているリチウムイオン電池は取扱いによっては「危険」なものであることを認識しておく必要があります。特に夏場はリチウムイオン電池が熱に弱いことを十分理解した取り扱いが必要です。本コラムでは、リチウムイオン電池による火災の実情と夏場における取扱いの注意点を説明します。
目次
1 リチウムイオン電池関連火災は年々増えています
東京消防庁によれば、リチウムイオン電池関連火災は「令和5年中は167件(速報値)発生し、過去最多となっています。死者は発生していませんが、負傷者は14名発生しています。」となっています。(下表参照)
(令和6年7月東京消防庁報道発表資料から)
2 製品用途別の火災状況「NO1はモバイルバッテリー」
下図に示すとおり、モバイルバッテリーからの出火が最多となっています。携帯電話(スマートホン)、電動アシスト付き自転車、コードレス掃除機、電動工具と続きますが、「その他」(※)を含め、リチウムイオン電池を搭載している製品全てといってよいほどの多種類の製品からの出火が見られます。
火災のリスクは、製品の普及数、使用頻度や使用形態、搭載しているリチウムイオン電池の容量、使用環境、製品の品質等によると考えられます。
例えば携帯扇風機/ハンディファン/手持ち扇風機は、普及が進んでいますが、電池容量としては比較的小さいものが多く、発火、破裂、爆発があったとしても火災として報告されていな件数がかなりあると考えられます。
携帯電話機(スマートホン)、ノートパソコン、タブレットは広く普及していますが、安全機構が発展していて火災まで至るケースが減少していると考えられます。
(令和6年7月東京消防庁報道発表資料から)
3 リチウムイオン電池利用製品の使用に当たっての注意事項
製品の種類に関わらず、リチウムイオン電池搭載製品の利用に当たっては、以下のとおり共通して注意すべきことがあります。
(1)熱に弱いこと、特に夏場は要注意
・リチウムイオン電池は内部の分子が熱されることによって気化し、それによってバッテリーの膨張が起こります。膨張により電池内部の構造が脆弱となります。
・リチウムイオン電池に使用されているセパレーター(絶縁体)には一般的にポリオレフィン系樹脂が使用されていますが、周囲温度が通常の使用温度範囲を超える温度となると(夏季の車内温度、特に窓近く、ダッシュボードの上など)徐々に収縮し始め、両極が直接触れる状態となり、微小な短絡が生じ発熱が生じます。その発熱により連鎖的に収縮及び微小短絡が継続し、最終的には発熱が止まらなくなる(熱暴走)とともに、電解液である引火性有機溶媒解溶液に引火し、出火(破裂、爆発)に至ります。その際発生する気体は有毒なので、吸わないようにしてください。
・リチウムイオン電池を搭載(内蔵)するすべての製品は直射日光の当たる自動車内、特にダッシュボードの上などに置かないようにしてください。他に高温となる場所(屋外、屋内)にも気を付けてください(ガスコンロなどの火の近くなど、熱のこもる鞄の中に入れないなど)。
(2)衝撃に弱い、分解も危険
衝撃など外部の力によりリチウムイオン電池の正極と負極を隔てるセパレータが損傷するとショートが起こり発熱します。その発熱により電解液である引火性有機溶媒解溶液が発火すると出火、破裂、爆発に至ります。
- リチウムイオン電池自体は通常カバーなどで保護されていますが、堅い尖ったものや角が立ったものが強く押し付けられるとカバー内のリチウムイオン電池が損傷することが考えられます。スマートホンやモバイルバッテリーを堅いものの上に落としたり、ズボンの後ろポケットに入れた状態で転んだり、堅い椅子の上に座ったりするのもリスクがあると考えてください。
- リチウムイオン電池内蔵製品を自分で分解しようとし、ドライバーの先でリチウムイオン電池を傷つけ、発火につながった事例もあります。
- 携帯扇風機/ハンディファンについては、こちらもご参照ください。
【コラム】手持ち扇風機で爆発が多発!注意すべき点と対策をご紹介
https://www.syou-bou.com/media/2023/09/05/51
【独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)記事】
「携帯用扇風機「1.損傷したバッテリーが破裂」
https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/poster/kaden/2021062401.html
PSEマークとはProduct Safety Electrical appliance & materialsを略したもので、電気用品安全法の基準を満たした電化製品につけられるマークのことを指します。
PSEマークはモバイルバッテリーやアダプタなどを含む、457品目に表示が義務付けられており、PSEマークと届出事業者名の表示がなければ製品を販売することができません。
例えば海外から電化製品を輸入した場合でも、その電化製品を日本国内で販売する際は「PSEマークの表示」が必要となります。
PSEマークには情報機器であるパソコン/スマートホン/タブレットは電気用品に該当しないためPSEマークの対象外ですが、付属品の電源アダプタや組み込まれているリチウムイオン電池などは電気用品なのでPSEマークが必要です本文を記入してください。
(4)純正品のACアダプタを使用する、メーカーが指定するバッテリーを使用する
充電する際、製品に付属している純正品のACアダプタとは出力が異なるACアダプタを使用すると、電気的不具合が発生し、バッテリーセルが内部短絡し出火することがあります。
また、メーカーの純正品ではなく、互換性がある海外メーカーの非純正品バッテリーを充電中に出火した事例が報告されています(電動工具)。
(5)万が一のことを考えて、出火した場合のリスクを軽減する
リチウムイオン電池を搭載した製品から出火する火災の火災原因は、下図のように明らかなものもあれば不明の場合も多くあります。
(令和6年7月東京消防庁報道発表資料から)
万が一出火、破裂した場合のことも想定して、充電中の製品の周囲に可燃物を置かない、製品を携帯する場合には不燃性のケースなどに収納する等の備えが重要です。
(6)不用品を処分する際は、地域のごみ回収方法をよく確認する
家庭用ごみでは、電池は一般廃棄物に分類されます。リチウムイオン電池をプラスチックごみとして不燃ごみに出すことはできません。誤って不燃ごみに出すとごみ収集車やごみ処理場の火災につながることもあります。家電量販店やホームセンター、市役所、大型のスーパー等に設置してある、リチウムイオン電池のリサイクルボックスに持ち込みましょう。再生資源化製品のリサイクルを推進している一般社団法人JBRCのホームページ(https://www.jbrc.com/)から、リチウムイオン電池を回収している店舗や自治体を検索できます。近所に回収場所が見つからない場合は、ホームページを活用して回収場所を検索してみましょう。
4 もし発火や破裂してしまった場合どうしたら良い?
リチウムイオン電池搭載の製品から発火、破裂、爆発が起きた場合には、直ちに使用をやめるとともに、製品から離れてください。リチウムイオン電池の火災は、燃焼反応続いているときには水でも消火器でも容易に消火できません。
周囲の可燃物に火が燃え広がった場合には、可能な範囲で初期消火を実施します。火勢が強い場合、火災が広がっていきそうな場合には119番通報をしてください。ただ消防車が現場に到着するまでに数分はかかりますから、火が小さいうちに可能限り自力でできる消火活動を行い、延焼を防ぐようにしましょう。
ワイピーシステムでは、電気火災にも対応した簡易消火具「消棒Rescue®」を提供しています。消火剤に二酸化炭素を使っており、周囲を汚すことがなく後始末も容易です。消火器よりコンパクトなサイズで消防法にも準拠した商品ですから、安心してお使いいただけます。
こうしたグッズを、火災が起きやすい場所の近くに設置されてはいかがでしょうか。