どのような仕事でも従業員が就業中に怪我や病気をするリスクはありますが、電気工事では特に電気を扱うため、漏電などによって感電する危険を伴います。
また、脚立にのぼるなどして高所での作業が発生するため、工工事やとび、左官工事など、ほかの工事と同様に転落の危険性もあります。
では、電気工事で事故を起こさないための安全対策として、どのような方法があるのでしょうか?
今回は、電気工事で事故につながりやすい原因と、安全対策のポイントを解説します。
目次
電気工事で起きやすい事故とは?
電気工事を行っていて起きやすいのは、感電事故と転落事故です。
感電事故
電気工事では、電気機器や電気配線を扱うため、感電事故のリスクがつきまといます。
配線作業中の感電のほか、作業後の試運転で感電することもあります。
少し古いデータにはなりますが、厚生労働省が労働災害(労災)について分析したレポート「最近の感電死亡災害の分析」によれば、平成25(2013)年の感電の災害発生件数自体は17位と、そこまで多くないものの、致死率を見ると5位。一度、感電事故が起きれば、死亡に至る可能性が高いことがわかります。
転落事故
電気工事を行う際に、2m以上の高さで行う高所作業時に、脚立や足場、高所作業車などから転落する事故も起きています。電気工事から少し枠を広げ、建設業で発生した労災という観点から見てみると、墜落・転落が最も多く起きています※。
脚立を正しく使用せず、壁に立てかけた状態だったり、靴を履かずに靴下で作業をしていたりと、ヒューマンエラーに起因する転落事故が多く、作業員への教育などを実施することで、発生を抑制できる可能性が高いといえます。
ぞれぞれの事故が起きる原因については、以下でご紹介いたします。
※出典:「令和4年の労働災害発生状況を公表」
感電事故が起きる原因
感電事故が起きる主な原因として、電圧がかかっている箇所や漏電箇所に触れることと、絶縁用保護具や絶縁用防具を正しく使用していないことが挙げられます。
電圧がかかっている箇所・漏電箇所に触れる
電圧がかかっている電気配線や電源端子などに、絶縁手袋などの装備が付いていない肌に直接、触れてしまい、絶縁靴などを履いていなければ、電流が体を伝って大地に流れ、感電してしまいます。
また、漏電した箇所に気付かずに誤って触れてしまったり、内部の回路が漏電した電動工具を使用してしまったりすることでも、感電事故が起きます。
絶縁用保護具や絶縁用防具を正しく使用していない
本来、電気工事を行う際には、夏場でも長袖・長ズボンの作業着と安全靴を着用しなければなりません。高圧・特高圧を扱う場合などでは、絶縁衣や耐電保護具、電気用ゴム手袋、電気用ゴム長靴といった絶縁用品や、静電気帯電防止作業服が必要です。
しかし、「暑い」「面倒」などの理由で半袖、短パン、サンダルなどで作業を行ってしまうと、
また、絶縁用保護具や絶縁用防具などを着用してはいるものの、正しく着けられていなければ十分な効果が得られずに、感電してしまう恐れがあります。
前出の「最近の感電死亡災害の分析」によると、感電事故の多くは、絶縁不良などのハード面よりもヒューマンエラーなどソフト面に原因があるといいます。特に、夏場で発汗していると漏電しやすくなるため、低圧での関電志望者数は8月が圧倒的に多くなっています。
転落事故が起きる原因
電気工事において転落事故が起きる主な原因は、作業計画や準備不足、高所作業の安全対策不足、人為的なミスや無謀な行動の3点に集約できます。
作業計画不足・準備不足
墜落や転落を防止するためには、十分な作業計画や準備が必要不可欠です。
作業計画書や作業手順書で、あらかじめ転落事故が起きにくい安全な作業方法を取り決めておかなければ、作業員が危険な方法で作業してしまったり判断ミスが起きやすくなったりして、転落事故に結びつきます。
また、安全帯やランヤードといった墜落防止のための器具を正しく装着し、事前点検・確認を行うといった準備を怠ることも、転落事故につながります。
高所作業の安全対策不足
高所での電気工事を行う際は、仮設足場を建てたり、脚立を使ったりします。
この時、作業員が作業をしやすいよう、作業床や安全柵・防護柵、手摺などを設置したり開口部を塞いだりして、安全に作業に集中できる環境を整えておかないと、転落事故につながる恐れがあります。
また、労働安全衛生法に基づいて厚生労働省が制定した「労働安全衛生規則」(安衛則)に則って、作業員を落下事故から守るための装備を装着させることも重要です。安衛則は、随時、改定されるため、最新の内容に基づいて対策を講じる必要があります。
人為的なミスや無謀な行動
作業員の注意力の欠如などが原因で人為的なミスが発生し、転落事故につながることもあります。
また、作業員が適切な手順を無視したり、安全帯やランヤードを正しく装着していなかったりすることも、転落事故の原因となります。
電気工事での安全対策のポイント
電気工事において転落事故を防ぐためには、以下の3つの観点から対策を行いましょう。
行動による安全対策
電気工事を行う際は、必ず作業手順書を作成して計画を立てた上で、十分な準備を行うことが大切です。作業計画を立てることで、無駄な作業や危険な作業を排除できるようになります。このため、作業員が複数人いても作業方法を統一でき、次の作業にスムーズにつなげたり、仕上がりの品質を保ったりすることができます。さらに、安全確保にもつながり、事故や災害を回避することができます。
あらかじめ作業手順を確認するほか、電源やブレーカーの状態を確認行い、通電中なのか非通電なのかという確認をする、検電送電を切る、作業中の掲示を行うなどの準備も入念に行う必要があります。
また、事前のルールづくりや、これを周知するための安全講習等も大切です。現場では、通電する際、高所の作業場に昇降するための設備を作動する際などの合図を決めておき、作業員全員の認識を合わせておくことで、事故を防ぎましょう。
服装による安全対策
長袖の作業着を着用した上で、ヘルメット、保護メガネなどを身に付けて電気工事に当たることが、作業員の身の安全を守る上で重要です。夏場、高温になる場所での作業には、小型の扇風機(ファン)が内蔵された「空調服」を利用するのも一手でしょう。
さらに、高電圧での作業をする作業員には絶縁靴や絶縁手袋を着用させる、高所での作業をする作業員には安全帯やランヤードを装着させるというように、作業内容に合わせて適切な装備を実施する必要があります。
また、作業着やヘルメットなどの正しい身に着け方も併せてレクチャーしておくことが大切です。装備を追加するだけでなく、ベルトやライターなど、金属類を身に着けて作業しないことを徹底する必要もあります。適切な装備で工事していなかった場合、労災認定が下りないケースもあるため、その点も作業員に周知する必要があるでしょう。
服装ではありませんが、水分が付着していると感電事故が起きやすいため、塗れたままの手で作業しないことはもちろん、汗なども小まめに拭き取って作業することを徹底してください。
工具による安全対策
電気工事で使われる工具には、漏電遮断器などの安全装置が内蔵されています。ただ、安全装置が故障していたり、工具の中で漏電していたりする場合もあるため、定期的な点検、修繕が必要です。
また、作業前に検電器を活用して、作業する部分に電気を帯びているかどうかを確認したり、墜落防止装置(高所安全装置)に不具合がないかどうかを定期的に点検しておいたりすることも、事故を起こさないために重要なポイントです。
まとめ
電気工事においてよく起きている事故は、感電事故と転落事故です。
それぞれ原因は異なりますが、いずれも、正しい手順と準備、装備などをもって、回避することが可能です。
電気通信工事業や建設業において最も重視しなければならない要素の一つが、現場での安全管理です。こうした事故をゼロにすることを目標に、作業員に対する研修なども含め、会社を挙げて取り組む必要があるでしょう。
また、電気工事関係のトラブルには、感電に加え、ショートや漏電によって可燃物から出火する可能性もあります。万が一の火災に備えて小型軽量のエアゾール式簡易消火具を携行するとより安心でしょう。
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